どらごんぼーる考察

がんだまぁBlogからドラゴンボール記事を移植しました。以後ドラゴンボール考察はここで展開します。

悟空にとっての「強いヤツ」の基準

「おめぇつえぇな…オラワクワクしてきたぞ!」という台詞(厳密にはこの台詞自体は原作では言っていないと思いますが)は、悟空のキャラクターを象徴するものですが、この「自分より強いかもしれない敵」に遭遇した時のワクワク感が、悟空が強くなろうとすることをやめない源泉でもあります。

しかし、フリーザを倒してから、原作ではこの言葉をあまり発していません。トランクスから人造人間の話を聞かされた時は、戦いたいと思っていたようですが、実際に人造人間と戦った時は(発病中ということもあって)そういった描写はありませんでした。セルの存在を知った時も、「楽しいか?怖いか?」と聞かれて「両方だ」と答えたのを最後に、セル自身との戦闘でワクワクしているような描写はやはりありませんでした。ブウについても同様で、最後に元気玉でフィニッシュを決める時にのみ、生まれ変わったら1対1で勝負したいという願望を口にして、ようやく悟空らしさが戻ったように思います。

このように、悟空は自分より強い敵が現れた際に、常にワクワクするというわけではないようです。その違いを探ってみようと思います。

 

キーワードは、「1対1で戦う」ということかなと思います。ブウについてもみんなで戦って元気玉でやっと倒せた敵でしたし、最初にベジータと戦った時にとどめを刺そうとするクリリンを止めたのも、悟飯・クリリン・ヤジロベーのアシストがあってやっと倒せた相手に今度こそサシで勝ちたいという気持ちがあったからです。「自分より強い相手に、どうやって1対1で勝つか」というところに、悟空が強くなるモチベーションがあるように感じます。

このスタート地点は間違いなく最初の天下一武道会の時で、亀仙人は悟空とクリリンより強い相手がまずいないであろうことを確信したからこそ、自ら変装して出場し、悟空に勝って世の中には強い人間が他にもいるということを教えました。その結果、悟空は世界にはまだまだ強いヤツがいるかもしれない、そいつらに勝てるようにもっと修行しなければと思えるようになりました。これが、悟空の向上心の源泉です。

亀仙人は、自ら体を張らないと自分が世界で一番強いと勘違いし、増長してしまうかもしれないという危機感を悟空に抱いていました。実際、悟空は強くなるとそれなりに増長するところがあり、神様との修行後に天津飯相手に舐めプしたり、ナメック星到着時にはベジータに、オラはずいぶん強くなったと思ってるがそれでもフリーザの方が上だってのか、的なことを言っていますし、フリーザ戦前のメディカルマシーン完治後に「なんとかなりそうだ!」と自信を持っています。精神と時の部屋での修行後にベジータに「ずいぶん上だと思う」と言い切って見せましたし、ブウに対しても自分たちより強いヤツが現れるなんてありっこねえと思ってたと言っていました。

 

つまり、悟空は修行して相手より強くなることで自尊心を肥大化させるものの、それ以上に強い相手が現れると、コイツに対抗するために努力すればまだ強くなれるかもしれないという可能性を感じてワクワクする、という性格であることが分かります。ベジータが自分より強い相手が現れると絶望するのに対する、決定的な差でもあります。

悟空は、(連載が続くために)常に強い相手という目標を目指して修行して強くなっていきました。その過程を追ってみます。

 

物語当初:おそらく悟飯(じいちゃん)が想定目標。

序盤:亀仙人の元で修行し、クリリンとともに競い合い成長。

第21回天下一武道会後:ジャッキー・チュン(途中、桃白白)を上回ることが目標。

第22回天下一武道会後:ピッコロ大魔王およびマジュニアを倒すことが目標。

第23回天下一武道会後:マジュニアに負けないことが目標。

ラディッツ戦後:まだ見ぬナッパ・ベジータに勝つことが目標。

ベジータ戦後:ベジータを上回り、それよりも強いらしいフリーザをも上回ることが目標。

フリーザ戦後:フリーザよりも強いらしい人造人間を上回ることが目標。

心臓病回復後:セルを上回るため、超サイヤ人を超えることが目標。

精神と時の部屋修行後:悟飯の力を全て引き出し、その力を超えるのが目標。

セル戦後:あの世で悟飯やあの世の達人を上回ることが目標。

ブウ戦後:ブウを自力で倒せるようになることが目標。

ビルス戦後:ビルスを超えるのが目標。

ブロリー戦後:ブロリーを超えるのが目標。

 

おそらく「超」まで含めての悟空の強さのベンチマークはこんなところかなと思います。映画「ブロリー」で悟空はブロリーのことをビルス様より強いと言ったので、目標はここで更新されたはずです。

ポイントは、悟空は割と「まだ見ぬ相手」のために修行するパターンがあることです。ベジータ戦前のあの世での修行と、ナメック星に向かうまでの重力修行、人造人間が現れる前の修行がそれですね。これらの場合、実際に現れた敵は修行した成果を上回っていました。ベジータ界王拳を3倍にしても互角が限界でしたし、フリーザはナメック星到着時であっても10倍界王拳で1回変身したフリーザに勝てるか怪しいところでした。人造人間も、19号・20号はともかく17号や18号に勝てるだけの戦闘力は得られていませんでした。やはり明確な目標がないと修行の到達点の設定が難しいと同時に、想定目標よりも実際の相手が強かった時に悟空は「ワクワク」するのかもしれません。

 

おそらく、悟空が強い敵を前にワクワクするかどうかの差は、この「自らの想定よりも強い」という点にあるのではないかと思います。

例えば、人造人間19号は想定より弱かった(心臓病のせいで勝てなかったけど)ですし、セルの全力は悟空の予測した悟飯の覚醒時より弱く、復活したブウは超サイヤ人3なら勝てるレベルでした。

人造人間編以降、悟空があまりワクワクしているように見えないのは、自分が戦う番になった時の相手が、自分の予想以上には強くなかったからなのでしょう。

 

また、悟空は明確なベンチマーク相手がいない場合、ある程度のレベルで修行をストップしてしまう傾向があります。あの世での修行でベジータの戦闘力が分かっていれば、5倍の界王拳に耐えられるくらいまで修行したかもしれませんし、フリーザの戦闘力が分かっていれば、20倍界王拳以上に耐えられるように修行したかもしれません。人造人間と戦うために3年間修業してもあまり強くなっていませんでしたが、1年間精神と時の部屋に入ったら大幅にパワーアップしました。当たり前ではありますが、倒すべき敵の想定戦闘力が具体的になるまでは、悟空はあまり強くなれないようです。ラディッツが来るまでの間にピッコロは魔貫光殺砲を編み出しましたが、悟空は何もしていませんでしたしね。

強くなるためのモチベーションは非常に高い悟空ですが、一人で強くなるのはあまり得意ではありません。この辺、むしろ一人で修行して強くなることが多いベジータとは対照的かもしれませんね(これは、常にベンチマーク対象がカカロットだからですが)。その意味で、あの世で超サイヤ人3までパワーアップしたのは例外的です。死人だから肉体に負担をかけても大丈夫だろうと限界まで負荷をかけてみたのかもしれません。

 

まとめると、悟空にとってワクワクするほど強いヤツとは、単に自分よりだけではなく、「悟空自身が想定した相手の強さをさらに上回る相手」であると言うことができると思います。

ベジータは悟空をナンバーワンだと認めるくだりで、悟空のことを「勝つためではなく、負けないために戦う」と評しています。読んだ当時はあまりピンと来なかったのですが、悟空のモチベーションは「敵の戦闘力を上回り倒すこと」ではなく、「自分の戦闘力を上回る相手を見つけてそれに勝てるくらい強くなること」にあるということなんでしょうね。勝つという快感を得たいだけなら、相手は弱くてもいいんですが、負けないことを目標にすると、どんなに強い相手にも対抗できなければなりません。ゲームに例えると、初心者や同格相手に勝って楽しむのではなく、常にトップランカーを目指して自分もそのレベルになるまで練習しているプレイヤーということになります。

だから自分より弱い相手には興味がないんですよね。ギニュー特戦隊と戦おうとしなかったり、フリーザとの戦いをやめようとしたのは、確実に勝てる相手と戦っても自分が強くなれないのを知っているからです。

 

過去の劇場版やアニメオリジナルの展開だとキャラがぶれやすい悟空ですが、鳥山明氏が動かす悟空は必ずこの原則にたって描かれています。これこそが悟空というキャラクターの魅力なんだと思いますね。