どらごんぼーる考察

がんだまぁBlogからドラゴンボール記事を移植しました。以後ドラゴンボール考察はここで展開します。

悟空が敵を殺さない理由

 主人公である孫悟空は、敵キャラを殺そうとしない傾向にあるのですが、それがいわゆる「ガンダムSEED」のキラ・ヤマトや「るろうに剣心」の剣心的な不殺とは違うのではないかと思い、考えてみました。

 いわゆる「不殺」というのは、いわば「人間を殺してはいけない」という道徳観念を貫いたものであり、また自分はもう人殺しにはなりたくない、という殺人体験を経た後の生理的嫌悪感から来ているものでもある、と思います。
 それに対し、孫悟空のそれは、「勝利した後に止めを刺さない」というものであり、ほぼ例外なく対峙し勝利した敵を殺さなければ後々まずいという状況でのみ現れています。

 例えば、ギニュー特戦隊に勝利した時、止めを刺したベジータに対して「何もそこまでしなくても」と何度も言っています。地球でナッパを倒した時も、殺しはしませんでした(ベジータが殺しちゃったけど)。
 悟空がそのようなことを言うのは、「もう勝負はついたから」ということに他なりません。ベジータらにとっては生きるか死ぬかの殺し合いであっても、悟空にとっては天下一武道会の試合の延長くらいにしか捉えていない、ということです。
 これは、育ての親である孫悟飯や師匠である亀仙人の教育の影響によるのではないかと思います。武道家は殺し屋ではない、という鶴仙人とは対極にある考え方を身につけているがために、そのような考え方を持つようになったのでしょう。
 しかし、それにしてはフリーザさえ見逃そうとしたり、やや融通が利かない部分があります。これは、サイヤ人の本能である「より強い敵と戦いたい」という感情が、悟空の持つ「戦い=試合」という観念と合わさっているからなのではないでしょうか。

 例えば、天下一武道会でピッコロに勝利した時。この時はピッコロを殺すと神様も死んでしまうという現実があったものの、ライバルがいなくなるのは寂しいから、という理由も語っています。
 同様に地球にやってきたベジータも見逃していますが、これはもう一度戦って勝ちたいから、という理由でした。
 更に、クリリンを殺したフリーザでさえ、一度は見逃そうとしていました。この時も「更に腕を磨くんだな」と、再戦を考慮に入れていることが分かります。
 魔人ブウについてはさすがに見逃しはしませんでしたが、生まれ変わったら一対一で戦いたいと望み、実際に生まれ変わったウーブと戦うことができました。

 このように、悟空が敵を殺さない理由には、自分に匹敵する実力を持ち、今後も対等に近い勝負ができそうだから、という側面もある事が分かります。サイヤ人の闘争本能を満たす相手がいなくなってしまうというのは惜しい、という考え方があるからなのですが、そこに戦い=試合であるという概念があるからこその考え方であるとも言えます。ベジータもセルをわざと完全体にするなど、より強い敵と戦う事を望む傾向がありますが、とどめはしっかり刺しますからね。

 悟空がそのような思考回路で行動していることがわかると、セルゲームの際に悟空が悟飯に戦わせた理由も見えてきます。
 悟空は、精神と時の部屋での修行で、悟飯の真の力を知りました。それがあればセルに勝てる、というのが作中での言動でしたが、真の目的は「悟飯にセルを倒してもらう」ことではなく「セルに悟飯の真の力を引き出してもらう」ことだったように思います。
 悟空は、セルより悟飯の方が強いと知ってしまったわけです。その時点で、サイヤ人の本能である「より強い敵と戦いたい」という興味の矛先は、セルではなく悟飯に向く事になります。つまり、この時点で悟空の興味はセルと戦う事ではなく、真の力に目覚めた悟飯と戦う事になってしまったのです。
 そのようにして見ると、悟空がやったことも少しは理解できます。悟飯の真の力は怒りの感情がトリガーにならないと発動しません。しかし、実の父親である悟空が息子の悟飯を心から怒らせることはまず不可能です。やはり、フリーザのような極悪な敵の非道な行為に対してでないと…と考えれば、まず悟飯をセルと戦わせて怒らせるように仕向ければいい、という結論になっても不思議ではありません。
 結果的に、悟空の個人的な興味による行為は悟飯を苦しめているだけだとピッコロに諭され、考えを改めるわけですが、とにかく悟空にとってはセルより悟飯の方が強いことを知ってしまった時点で、目標がセルではなく悟飯になってしまったということです。これは、当初ベジータが目標だった悟空が、フリーザの存在を知りフリーザを倒すことが目標になったのと同じ、ということですね。
 悟空は一見不殺を貫く心優しい主人公に見えますが、実際は戦いを全て試合と解釈し、敵味方の関係はリングの上でしか成立しないという概念に基づいて行動しているだけ、という話でした。

 ちなみに悟空が「再戦を望まずに」相手を直接殺したのは、おそらくピッコロ大魔王だけだったのではないかと思います。しかしアニメの劇場版では、悟空が主人公の話ではほとんど悟空が直接敵を殺してしまっています。エンタメ的には当然なのですが、もうちょっと悟空というキャラクターを理解して話を作って欲しかったかな、と思いますね。今思うと。